コロナウイルスワクチンと、動機づけ面接:ワクチン接種について話し合う方法として

217日から日本でも、コロナワクチンの医療従事者への接種が始まりました。

前線でリスクに向き合っている方にワクチンの投与は本当に嬉しくなりますね。

 

この予防接種、アメリカにおいては日本よりもかなり進んでおり、210日時点で既に3380万人(人口の約1割)が接種を終えた(参考1)のですが、「このまま全員に接種してコロナ収束だ」とは中々行きません。

 

そこには、予防接種自体について、アメリカ国民の中に広がるワクチン接種へのそもそもの抵抗感があると言われています。そして、動機づけ面接が、予防接種について話し合うための一つの有効な方法として考えられています。

 

 

今回の記事では、アメリカにおける予防接種と動機づけ面接との関わりについてご紹介します。

 

〇アメリカにおけるコロナワクチン投与への抵抗感

 Pew Research Center202011月に行った調査によれば、コロナウイルスワクチンを「おそらく投与しない」「絶対に投与しない」と答えたアメリカ人は、全体の39%に上ります(参考2)。フランスの調査会社イプソスが202010月に実施した調査においても、「ワクチンが利用可能になっても接種しない」と答えたアメリカ人は、約4割いたことが明らかとなっています(参考5)。

〇アメリカ特有の予防接種への不安とその3つの原因

 日本においても、概ね同程度の4割程度が抵抗があると答えていますが、アメリカにおいて感染者数は2700万人を超え、死亡者数も既に48万人を超えるという深刻な感染状況があることを踏まえると、予防接種になぜここまでの抵抗感があるのかと少し考えてしまいますね。

 

 予防接種への強い抵抗が生じるのには、本当に様々な原因があると言われます。

 

 ここでは、代表的な3つのものをご紹介します。

1.宗教的な理由

 一部のキリスト教徒は、予防接種が最初に広まった時、「誰かが天然痘で死ぬべきと神が定めた時に、予防接種によってそれに逆らうことは罪である」と主張しました。宗教的な立場からの予防接種への反対は、今日も続いています。実際に、3つの州を除き、全ての州で予防接種の宗教的な理由による拒否が認められています(参考3)。

2.MMRワクチンパニック

 1998年かにウェイクフィールドが「ランセット」誌に、自閉症の発症とMMRワクチンの接種とが関連しているとの記者会見を開きました(※MMRワクチン=麻疹・おたふく風邪・風疹の三種混合ワクチン)。

 

 科学的根拠に乏しい発表で、現在はほとんど否定されています。

 

 しかし、その主張が広まり(元々いたワクチン反対派がその主張を積極的に広めたと言われます)、そこに因果関係があるような印象が出来上がってしまいました。アメリカでのMMRワクチンの接種率は下がり、予防接種を受けなかった子どもたちが成長することで、集団免疫が確保できなくなりました。

 

 実際に、2010年代に入ってからかつて実質上根絶されたと考えられていた麻疹が風土病となるに至っていますが、こうした「MMRワクチンへの恐怖」が「ワクチン自体への恐怖」に転換しているも考えられています(参考6)。

3.黒人が持つ「モルモットにされること」への恐怖

 また、ワクチンへの拒否感は、人種によって差があることもPew Research Centerの調査で明らかになっており、特に拒否感が強いのは黒人です。黒人においては、ワクチンを「おそらく投与しない」「絶対に投与しない」と答えた人の割合は、58%に上ります(全体では39%)(参考2)。

 

 黒人が接種に積極的ではない理由には、過去に黒人が医療発展の犠牲となった歴史があるとみる向きもあります。有名な「タスキーギ梅毒実験」では、40年間に渡り、梅毒に罹患した黒人患者を集め、治療を行わずに病状の進行を調査しました。その他の、歴史的な悲劇の記憶が残る黒人の中で、ワクチン接種への恐怖感があると言われます(参考4

〇ワクチン反対派への、論理的な説得の難しさ

 さて、上記のような理由により、アメリカにおけるワクチン接種への抵抗には根深いものがあります。

 集団免疫の確保という観点からは、出来ることならばより多くの人に接種を受けてもらうことが望ましい訳ですが、実際にはそうもいかない事情があります。

 

 ワクチンの安全性については良好な結果が得られているのだから、そのことを伝えれば良いのではないかと思いたくなるのですが、そう簡単ではありません。

 

 

 ワクチンの有効性について「論理的に説得」しようとすると、ワクチンへの抵抗感が更に増すことがあるからです。2014年のカリフォルニアの調査では、ワクチン接種に乗り気でない両親に、MMRワクチンが自閉症を引き起こすことはないと説明した所、ワクチン接種を行う気が更に失われてしまったことが確認されました。合理的に説得し、理性に訴えかける方法を取った所で、その考え方が簡単に変わる訳ではないのです(参考6)。

〇予防接種と動機づけ面接 -それについて話し合うための方法として-

 では、どのようにして、予防接種について人々に考えてもらえば良いのでしょうか。

 そのための一つの方法として、有効性があると考えられているのが、動機づけ面接です。

 考えてみれば「コロナウイルスは怖い」けれど「ワクチンを受けることにも不安がある」というアンビバレンスを扱うのに、動機づけ面接という方法は有効なんですね。

 

 131日に、ニューヨークタイムズ紙の記事「The Science of Reasoning With Unreasonable People」では、予防接種について話し合う有効な方法として動機づけ面接が紹介されています(参考7)。

 

 この記事の中では、産科病棟での母親に対して予防接種についての動機づけ面接を1度行うことで、子どもに予防接種を希望する母親の数が72%から87%に増加し、2年後に予防接種を受けた子どもの数も9%増加したというカナダで行われた実験が紹介されています。実際の実験の中でも、有効性が確かめられているんですね。

 

 

 細かくご紹介することは出来ませんが、ご興味があれば、元の記事に目を通して頂くのも良いかと思います。

〇まとめ

 今回の投稿では、コロナウイルスワクチンと、動機づけ面接との繋がりや、その活用法についてご紹介しました。

 コロナウイルスに限らず、動機づけ面接は、社会問題(例えば環境保護等)について話し合う方法として注目されることもある、守備範囲のすごく広い方法だったりもします。

 

 ただし、動機づけ面接を学ぶ者として覚えておくべきことは、動機づけ面接は「ワクチンを打ちたくない人を操作し、無理やりワクチンを打たせる方法ではない」ということです。

 

 動機づけ面接は、あくまで「両価性のある」すなわち「迷っている」ことについて話し合うための手段であり、相手を無理やり変えるためのものではありません。

 

 本人自身がワクチンを打つか打つまいか迷っている。そんな時に、その迷うプロセスを邪魔することなく、ワクチンについて建設的に話し合うのに有効なのが動機づけ面接です。

 

 

 動機づけ面接と社会問題との繋がりに思いを馳せていただければ幸いです(三条)。

※参考

1.https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210211/k10012860861000.html

2.https://www.pewresearch.org/science/2020/12/03/intent-to-get-a-covid-19-vaccine-rises-to-60-as-confidence-in-research-and-development-process-increases/

3https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3%E5%BF%8C%E9%81%BF

4https://www.sankei.com/premium/news/210115/prm2101150004-n2.html

5https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0807R0Y0A201C2000000/

6.デヴィッド・ロバート・グライムス「まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考で生き抜くために」KADOKAWA

7https://www.nytimes.com/2021/01/31/opinion/change-someones-mind.html